第56回目の心ぴく映画コーナーです。
今回観た映画は「インディー・ジョーンズ クリスタルスカルの王国」
「告発のとき」「休暇」「シークレット・サンシャイン」「帰らない日々」の5本です。
「インディー・ジョーンズ クリスタルスカルの王国」
正直ガッカリしました。私は<レイダース 失われたアーク>の大ファンです。
<未知との遭遇>も大好きで3回も映画館に足を運びました。
<ジョーズ>も<激突>も<続激突カージャック>も大好きで何回も見ました。
しかしそれからのスピルバーグ作品には正直乗れませんでした。<ET>は子供向けの傑作だと思いますが、それ以後アカデミー賞狙いで撮った<シンドラーのリスト>は本当に惜しい傑作だったのですが(ラストのシンドラーが泣く演出がちょっと・・)、すこし首を傾げ出したのはその頃からで、どうも人間ドラマとアクションシーンの演出がばらばらの印象を受けてしまうのです。たとえば人間ドラマのはずの<太陽の帝国>で捕虜のアメリカ人が、隠し持っていた拳銃を抜く時、必要以上のカット割りを使って、娯楽作品のようなハラハラドキドキを観客にしてほしいと露骨に分かるようなサスペンスシーンの不自然さ。
<プライベート・ライアン>の出だしのドキュメンタリーのような映像と、それからのシーンのあまりの違和感。そしてラストの変な演出。
<宇宙戦争>の娯楽作を作りたかったのか、人間ドラマを撮りたかったのか分からない中途半端な感じ。
そしてバリバリのエンターティメント、インディー・ジョーンズの続編。
とうとうスピルバーグに私の願いが通じて、「アカデミー賞監督という名声などいらない。私は娯楽作一本で行くんだ」と腹を決めてくれたのだと勝手に期待した次第です。
見事に裏切られました。
おそらくスピルバーグは映画なんてもう作りたくはないのでしょう。
アクションシーンで眠くなりました。しっかり計算して子供にも見せなくてはいけないから怖いシ-ンを省いてあります。だから当然大人がハラハラするわけがなく睡魔が襲ってきたのです。
でも世界中で大ヒットしているそうですから計算が大当たりですね監督。
これでわかりました。スピルバーグが目指しているものは映画監督ではなく、ヒットするか否かだけを考えているプロデューサーだということを。
ライバルは、偉大なエンターティメントの監督たちではなくて、あの大物プロデューサー、ジェリーブラッカイマーなのですね。
わたしはジェリーブラッカイマーがプロデュースする作品は基本的に見に行きません。計算ばかりが鼻について作品に乗れないのです。それに監督の力がプロデューサーより弱いので、監督の色が出ず独創的な作品は望めません。
スピルバーグ作品がそうなってしまうのはとても悲しい事ですが、仕方ありません。
そんな、わが青春時代の素晴らしき思い出が悲しいものに色褪せてしまった。墓標的作品です。
「帰らない日々」
惜しい作品です。
主演のホワキン・フェニックス。ジェニファー・コネリーの演技やほかの登場人物の演技が素晴らしかっただけに、ただ悲劇の連鎖をシュミレーション的に見せられた物語に、いま一つ感が残ってしまいました。
ラストからの物語が見られたら深い人間ドラマになっていたと思います。
その成功例が後で書く「シークレット・サンシャイン」です。
これくらいとは言わないまでも、もっと人間の深いところに突っ込んでほしかった。そんな印象の映画です。
というわけで今回は3本の傑作が心ぴく映画となりました。
「告発のとき」
戦争の真実を描いた傑作が、<父親たちの星条旗><硫黄島からの手紙>のイーストウッド。ポール・ハギス コンビの手で三度作られました。
戦争=狂気それ以下でも以上でもないことが前2作よりも淡々としかし衝撃的に語られています。イラクから戻り、軍を脱走した息子を捜す元軍警察の父親トミー・リー・ジョーンズ。すばらしい演技です。息子の秘密が薄皮を剥くみたいに明らかになる度に、陰影を増してゆく父親の演技は震えるほど見事でした。
この父親はどうやら、ベトナム戦争には行ったが軍警察ゆえにサイゴンの治安を守る仕事が主で、戦闘には参加してないように描かれています。これが作品的に重要なところで、代々軍隊に入る家系で、軍を信じている父親が、軍隊の本当の姿を観客とともに知ってゆくある意味ミステリー仕立てともなっています。
この構成が見事です。
戦争の本質を知るのは戦場で死の恐怖を体験した者しかいないということがよくわかります。
しかし、それを一度体験すると、心に取り返しに効かない傷を負ってしまい、元の自分には戻れないのです。
それほど罪深い戦争というものをこの映画は真正面から描ききっています。
元軍警察官の父親が、訓練され体に染みついた軍の教育のため、たとえモーテルの部屋でも朝起きたらベッドメーキングをしてしまうシーンが切なく印象に残ります。
とにかく見てください。
たとえ正義の戦争でも、あなたが権力者の身内ではない限り、始めてしまったら、戦場に行かされるのは紛れもなく私たちなのですから・・。
その為に、すこしでも戦争の真実を知りたいのなら、この作品をぜひ見てください。
過去でも未来でもなく、現実に起こっている戦争が描かれています。
必見の大傑作です。
「休暇」
とうとう日本映画に紛れもない大傑作が生まれました。
それも今、日本映画が最も不得意とする社会派という分野で誕生したことは驚愕に値します。
社会派の衣を被った泣かせ作品は多々ありますが、私が見た作品の中では<それでも僕はやってない>以来だと思います。
あの作品も素晴らしかったのですが、私の心をぴくぴくさせまくったシーンはこの作品が遥かに上です。
まず脚本が素晴らしい。不自然なところが全くありません。
ユーモアあるシーンでもリアルなのです。当然だと思われるかもしれませんが、
この過去10年間ぐらいの日本映画のほとんどには、普通の人が絶対話さないようなセリフが出てきます。マンガの映画化が多いせいか、マンガから影響を受けた映画が多いせいか、
まるで漫画の吹き出しのようなセリフの連発なのです。
マンガはセリフで状況を説明することが多々あります。それは紙に描いた動かない絵だから仕方のないこともあると思いますが、映画は生身の人間が演じているのだからセリフだけではなく無言の演技で画面を作ることができるのにと思います。
それができない映画は、アニメ好きの、人間にあまり興味のない監督が絵の代わりとして役者を使っているようで気持が悪い感じがします。
ずばり言ってそんな映画は、私は見たくありません。
この映画のような、映画でしか語れないものを見たいのです。
刑務官と死刑囚の物語です。
時間が行ったり来たりしますが、違和感を、全く感じさせません。素直に観客を物語に引き込む見事な演出になっています。そして登場人物の過去を過剰に説明しない潔さ、今の説明過剰なテレビドラマのような映画に慣れた観客には物足りないかもしれませんが、このリアルさが映画なのです。
セリフではなく死刑囚の青年が犯した罪を観客に分からせる1シーンが見事です。
それにしても一瞬も飽きさせないこの監督の手腕には脱帽させられます。
すべてのシーンが誤解を恐れず言うならば、ズバリ面白いのです。
切ないシーンも、ユーモア溢れるシーンも全ての映像が生き生きとしているのです。
おざなりにとったシーンが全くないといってもいいでしょう。
役者も全て良いです。主演の刑務官を演じる小林薫のいい意味でのとらえどころのなさ。一途に小林を思う再婚相手の大塚寧々の凛とした女の強かさ。
死刑囚の青年の淡々とした演技、特に妹との面会シーンの素晴らしさ。
ラストの緊張感漂うシーンは言うに及ばず、温泉旅行の小林薫と大塚寧々のシーンはまさに人間を描いたシーンとして目に焼き付いて離れません。
そんな素晴らしいシーンの連続です。見終わった後自然に眼がしらに涙がたまっていました。
まさに人間を描いた傑作です。今年、これまでに私が観た映画の中で一番好きな映画かもしれません。とにかく観てください。
紛れもない心ぴく映画の傑作です。
「シークレット・サンシャイン」
韓国映画です。
残酷な事件に巻き込まれた母子がたどる癒しの物語、と書けば最後、涙で終わる感動作だとお思いでしょうが、そこは心ぴく映画です。
それだけで満足する私ではありません。
この映画が凄いところはその先を描いているところです。
残酷な運命に巻き込まれた母親は、宗教に救いを求めます。
カルトなんかじゃありません、立派な団体にです。
そこで母親は完全に癒されます。自分たち母子を残酷な犯罪に巻き込んだ相手さえも許そうとします。いや明らかに許していました。
その犯人のある言葉を聞くまでは・・・。
本当に素晴らしい映画です。人間は神にはなれないことがよくわかります。
だから歴代の宗教家はその矛盾に苦しみぬいたことは、歴史を見てもよくわかります。
おそらく一生悟れないということを悟って死んでいったのでしょう。
本当に深い映画です。最後の何でもないシーンが印象深くいつまでも心に残ります。
主人公である母親を慕う、自動車修理会社の社長役のソン・ガンホの演技が相変わらず素晴らしく深刻なドラマの潤滑材になっていて見事です。
超お勧めの心ぴく映画です。
おそらくやっている映画館は極端に少ないでしょうからDVDで見てください。
今の日本映画やハリウッド映画にはない深い感動がここにあります。保証します。