第58回目の心ぴく映画コーナーです。
なんと前回から2カ月以上もたってしまいました。ということで2か月の間に観た映画は、
「ワイルド・バレット」「ゲット・スマート」「イーグル・アイ」「ハロウィン」「リダクテッド真実の価値」「トロピック・サンダー史上最底の作戦」「バンク・ジョブ」「1408号室」「トウキョウソナタ」「ぐるりのこと」「おくりびと」「デス・レース」「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」「宮廷画家ゴヤは見た」「僕らの未来へ逆回転」「その土曜日、7時58分」の16本です。
今回から、巻来功士的、しょんぼり映画、面白映画、心ぴく映画(心臓がぴくぴくするほど感動した映画)に勝手に分けさせてもらおうと思います。
ということでまず、しょんぼり映画から、
「僕らの未来へ逆回転」
ジャック・ブラックの破壊的ギャグを期待した私が馬鹿だったのか、非常に眠くなりました。なんだか映画ファンが自己満足で撮った映画に思えてしまいました。
同監督の前作<エターナル・サンシャイン>はここまで自己満足ではなかったと思いましたが・・・。しょんぼり。
「その土曜日、7時58分」
シドニールメット監督のファンだったので期待していきました。出だしのシーンからサスペンスの盛り上げ方はまさに巨匠の力技で、興奮しましたが、
途中から、どうこの不幸のつるべ打ちに決着をつけるのかと期待と不安のせめぎあいになり、ラストの中途半端感がどうしても飲み込めませんでした。
映画評は大絶賛ばかり(?)だったのですが、私はしょんぼりしました。
「イーグル・アイ」
スピルバーグ制作だったので大体こんな落ちだろうと思ったら、まさにそんな落ちでした。
最初から人間にあんなことできるはずもなく、宇宙人でなかったら、幽霊か、残りはターミネーターの悪役しかありません。途中のカーアクションが良かっただけにより、しょんぼりしました。
「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」
クローバー・フィールド的にゾンビ映画の巨匠ロメロ監督がゾンビ映画を撮るというので、
見に行きました。(褒めてある評論もあったので・・・)
1時間30分の映画がとにかく長く感じました。最初から最後まで同じ調子で盛り上がりもなく、しょんぼりしました。
「ぐるりのこと」
これも日本の映画賞総なめの作品で、信頼する映画評を出す人が今年の日本映画ナンバーワンというので、遅ればせながら見に行きました。
木村多江の演技は抜群で他のベテラン俳優もすばらしかったのに、最後まで感情移入できませんでした。夫婦のリアルな会話の中に何かが足りないと私的には感じてしまったのです。そうです映画の登場人物の中で妻生き生きとして確かにそこにいるのですが、夫はいませんでした。
他の登場人物すべてが何を考えているかがそれとなくわかる演技をしていたのに、夫であるリリーフランキーだけが何を考えているかが分からないのです。(これだけ映画評がいいのですから、おそらくそう感じたのは私だけでしょうが・・)プロの役者じゃないので仕方ないのかもしれませんが、まるで血の通った人間の中に、{いい人}というキャラクターのアニメの主人公が紛れ込んだ印象を受けてしまったのです。
しかしこれだけ好評な作品です。私の足りない頭でなぜなのかと考えまくった結果出た答えは、おそらく女性に好評を博しているのではないかという結論でした。
結婚に理想をもっているけど少し不安な女性たちは、当然、木村多江の熱演に感情移入するはずです。私が精神的に不安定な時に優しく見守ってくれる夫がほしいと・・・。
まさにそれを体現しているのがリリーフランキー演じる夫です。映画全般を通じて優しく見守ってくれます。それ以上でも以下でもありません(感情を少しだけ出すのは妻を平手打ちするところだけ)。つまり私にはこの夫だけが、妻のヒーローであるという個性しか与えられなかった異分子としてしか見えなかったのです。
<いや、リリーさんはプロの役者じゃないんだから・・でもいい味出していたでしょ>
などという業界内部のほめ言葉が私には聞こえる気がします。
女性たちが夢見るファンタジーとしては納得できますが、私には食い足りないところがある映画でした。そして社会派的色付けにも・・・。しょんぼりしました。
ということで今回のしょんぼり映画は5本です。
次は面白映画です。
「おくりびと」
この作品も<ぐるりのこと>と同様に賞狙いの匂いがするのですが、素直にもっくんに感情移入できました。最後の<再会>のシーンは不覚ながら目頭が熱くなりました。
ただ、いくらテレビ局制作の作品だからと言ってテレビコードに合わせなくてもいいと思うシーンがあったことがひっかかりました。まずおばあさんの腐乱死体の映像が全く出なかったことです。これは大切なシーンで一瞬でも無残な死体を見せることによって、妻<広末涼子>の生命感あふれる体にしがみつく夫<本木雅弘>の切なさが倍増され、後世に残る名シーンになったと思うのですが、惜しい限りです。モントリオールで賞をとったということですがこれは日本版のようにカットされていない版が上映されたのではないかと本気で疑ってしまったほどです。
この作品は生と死をしっかり見つめることによって成立する映画だと思いますから、すごく残念です。これを書いているとしょんぼり寸前になりました。
「ワイルド・バレット」
私の大好きなタランティーノ的アクション映画の佳作です。
犯罪に使われた一丁の拳銃とそれを盗んだ少年。追うマフィアのチンピラ(?)の主人公。
先の分からない展開と癖の強い登場人物たちの絡み合いにわくわくしました。
主人公が受けるアイスホッケーリンチは背すじが凍ります。
撃ち合いも派手でリアルなのですが、ハリウッド的ラストより少しほろ苦いラストにしてもらったほうが私の好みでした。少し残念な面白映画でした。タランティーノ好きにはお勧めです。
「ハロウィン」
カーペンターの傑作ホラーをロブ・ゾンビ監督が再映画化したというので観に行きました。
始まってから長々と、前作で描かれなかったマイクの少年時代が描かれます。これは前作とは全く違うスタンスの映画だと思い始めたころハロウィンマスクの殺人鬼が暴れ始めます。
前半と後半の映画の色が違う感じになるのです。正直これは失敗作かなと思いました。
そしてラスト、せめてあの有名なシーンを出すことによって汚名挽回を期待しましたが、
ラストはいい意味で、ロブ・ゾンビ色を出し前作と違うものとして印象深いものになったと思います。ラストのドアップ、これで映画の中途半端な印象も変えてしまう。そんなロブ・ゾンビファンにお勧めの映画です。前作のファンは首を傾げるかもしれませんが・・。
「ゲット・スマート」
昔のテレビドラマ<それいけスマート>の映画化です。傑作コメディー<40歳の童貞男>のスティーブ・カレルが主人公で得意の鉄面皮でギャグを繰り広げます。わき役もみんないい味出していて、ラストのどんでん返し的に正体を表す敵の配役には驚かされました。そして何よりの拾いものは、それまで何とも思わなかったヒロイン役の、アン・ハサウェイがかっこいいこと、惚れてしまいました。そんな面白映画です。アメリカン・コメディー好きにはお勧めの映画です。
「リダクテッド 真実の価値」
巨匠ブライアン・デ・パルマのイラク戦争告発映画です。
映画の手法は、<クローバー・フィールド>や<ダイアリー・オブ・ザ・デッド>と同様に映画の中の登場人物が手持ちのビデオで撮ったという設定の映像が流れます。
つまり、お客を選ぶ映像になっているということです。
起こったことは実話なので、リアリティーがある映像になって、映画には合っていると思うのですが、完全なドキュメンタリーではない分、どっちつかずの印象からか後半眠気が襲いました。しかし監督の戦争犯罪告発の執念は画面から漂ってきて一見の価値がある映画にはなっていると思います。とくにラストの真実のイラクの戦争被害者の映像には深く考えさせられます。そして本当のラストカット、デパルマが作った映像・・。作家としての気骨あふれる映像に唸らされました。狂気に満ちた戦場の空気を味あわせてくれる映画です。
とにかくラストまで見てください。
「1408号室」
宿泊して1時間で死んでしまうそんなホテルの部屋に、霊現象を信じない怪奇作家が宿泊するというベタでワクワクする設定にひかれて見に行きました。主演のジョン・キューザックもお気に入りの俳優だったので。
まさに全編ジョン・キューザックの一人舞台です。色々な表情を見せる芸達者な名優だからこそこんなベタな設定なのに飽きずに観ることができたのだと思います。
最後まで怖かったのも、ジョン・キューザックの演技のおかげ。最後にホロっ出来たのもジョン・キューザックのおかげ。これぞジョン・キューザックあったればこその面白映画です。
「デス・レース」
私が高校生の時に観た傑作にして怪作<デスレース2000年>のリメイクですが全く別物になっています。前作は人間の暴力性を風刺が効いたSFとして結実させていましたが、本作は男気溢れるマッド・マックスばりのバイオレンスアクション映画として立ち上がっています。出だしのカーアクションシーンから大迫力の連続です。マシンガンやミサイルで武装した囚人が乗る車が、まるでテレビゲームのような死の仕掛けが配置されたコースをかけぬけ勢いよく壮絶に死んでいきます。ナビゲーターには美人の女囚がのり花を添えるという男の本能を刺激する設定にもなっています。主人公には悪役からヒーローまで幅広くこなす、演技派でもあるジェイソン・ステイサム。彼の持ち味が、罠にはまり妻殺しの濡れ衣を着せられた元レーサーの悲しみと怒りを静かな面持ちの中に体現していてグッときます。後半近くまでの展開はアクション映画の傑作が生まれるほどの面白さだったのですが、そこは<バイオハザード>の監督作です。不安が的中しました。
ラストの最も盛り上がらなくてはならないシーンで地味な展開になってしまったのです。
惜しい。ほんとに惜しいと地団太踏みました。なんでそうなるの~監督~。
という映画です。でもラストを除いても見る価値のあるカーバトルアクション面白映画になっています。アクション好きにはお勧めの映画です。
ということで面白お勧め映画はこの7本です。
そして第58回の心ぴく映画はこの4本です。
「トロピック・サンダー 史上最低の作戦」
文句なしに楽しめたベン・スティラー監督・主演のベトナム戦争映画のパロディー映画。
70年代。ベトナム戦争映画にどっぷりとつかった青春時代を送った私にとって、わかるわかるとほくそ笑みながらの幸福な時間でした。かなりえぐい血のりがふきでるギャグも、当時の普通の演出方法のパロディーとしてかなり笑えました。70年代はR指定などなく血がバンバン吹き出る映画を平気で子供時代に観ていた大人は大丈夫だと思いますが、免疫がない若者はあまりのエグさについていけないかもしれません。
逆にいえば、そこが僕らの世代には魅力的に映る、そんな大バカ大アクション映画の傑作です。70~80年台前半の戦争映画ファンには特にお勧めのR指定コメディー映画の傑作です。
「バンク・ジョブ」
実録金庫破り映画の傑作です。
1971年ロンドンで起こった金庫破り事件を基にしているということです。
黒人解放運動家として文化人との交流も華やかな男(実は裏の顔は麻薬の大物売人)が、その裏の商売で自分を捕まえないように、王室のスキャンダル写真を公表すると政府を脅します。諜報機関は、その男の貸金庫の場所を知り、プロの金庫破りたちを集めて写真を取り戻そうとするのです。しかし金庫破りたちが根こそぎ奪った金庫の中には、警察と犯罪組織の癒着を示す書類もあり、彼らは悪徳警官や犯罪組織からも狙われることになります。
事実はどうもここまでのようで、それからはじまる彼らと、英国情報機関と、警察、組織との三つ巴命がけの駆け引きはフィクションのようですが、とにかく半端ない緊迫感と展開はそんなことを凌駕する面白さで、最後まで目が釘ずけになりました。
主演はこれもジェイソン・ステイサムでただの肉体派ではない渋い演技で物語を引っ張って行きます。
ジョン・レノンとオノ・ヨーコらしきひとも画面に出てきて70年代のリアリズムを表現して面白いです。
よく練られた脚本、無駄のない小気味いいテンポで進む映像、そしてさわやかな後味、どれをとっても、一流の大人のエンターティメントに仕上がっています。
傑作です。是非観てください。
「宮廷画家ゴヤは見た」
撮った作品にほとんど、はずれなしの76歳の巨匠ミロス・フォワマンの最新作と聞き期待して見に行きました。
やはりはずれなしの巨匠、素晴らしい映画に感動しました。
始まりは1792年のスペイン、教会はその権力を利用して異端審問をひらき、異教徒を拷問して処刑することを繰り返していました。時の宮廷画家ゴヤはその地位が幸いして時代を自分の目で見て絵画に表すことができたのです。あるとき友だちである商人の美しい娘がいわれなき罪を着せられ異端審問の拷問にかけられます。ゴヤが王家に救いを求めても時の教会の治外法権的な権力を揺るがすことはできませんでした。という風にストーリーは進み、ナポレオンのスペイン侵攻による教会の解放や、ナポレオンが去った後再びの異端審問の再開。
その時代というものにに翻弄される、商人の娘(ナタリー・ポートマン)とゴヤ(ステラン・スカルスガルド)、娘に屈折した愛情いだく異端審問を提案した神父(ハビエル・バルデム)の3人によって話が進んでいきます。
次々に出てくるゴヤの絵の素晴らしさに加え、美しいポートマンが10数年も拷問を受け続け、解放された時の体当たりの演技。全てを失った人間のはかなさと純粋さ、とにかく魅せてくれます。バルデム扮する神父がみせる権力に媚びる人間の弱さと醜さ、そしてゴヤの世俗を離れたまるで時代の傍観者のような芸術家のまなざし、どの演技もシーンも素晴らしく、時代の流れに翻弄される人間たちの一大絵巻にただ感動です。
ラストのポートマンが見つめるバルデムの顔、とにかく切なくて感動てきなラストです。
これこそ名作です。是非ご覧ください。
「トウキョウソナタ」
少し苦手だった黒沢清監督の珍しくホラーじゃないファミリー映画です。
主演が大好きな俳優香川照之なので見に行きました。
この映画は<ぐるりのこと>とは真逆に香川照之扮する主人公である一家の主人に、のっけから感情移入しまくりでした。
いきなりのリストラ、職探しの困難さ、ホームレスたちに交じって配給食糧での昼飯、男の情けないプライドから、リストラされたことを妻(小泉京子)や子供に話せないみじめさ。どのエピソードにも同じ世代の私には胸に迫るものがありました。とくに同じくリストラされた友達が一家心中するエピソードは、怖い演出がされていて並みのホラー映画なんかより鬼気迫ります。
少し飛躍した設定(日本人の若者も志願したら米軍に入ることができ、対テロ戦争に参加できるという法案が通ってしまっていて、長男がイラクに行くエピソード)も、来年くらいに現実になるんじゃないかという恐ろしさがあります
妻の、強盗についてゆくエピソードも少し不自然かもしれませんが、夜の海の荒涼とした風景が妻の心を表し引き込まれました。唯一の救いである二男の才能に触れたコンクール会場の観客達の、拍手をせず息を飲むばかりの張りつめた空気感が、舞台的演出ながら心に残ります。
ある、女性の評論家の受けは今いちのようで、確かに荒い演出もありますが、私の心臓にはびんびん来た傑作です。働き盛りのお父さんには特にお勧めです。きっと何かを感じるそんな傑作心ぴく映画です。
というわけで4本の心ぴく傑作映画。
上映されていなかったら、是非ともDVDで観てください。きっと満足できると思います。