第63回心ぴく映画コーナー
久しぶりの第63回目の心ぴくコーナーです。そして少し遅れましたが、このコーナーのラストに2009年度、巻来功士的心ぴく映画ベストテンを発表します。
この、ほぼ4カ月間に見た映画は、「アバター」「カティンの森」「誰がため」「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」「インビクタス/負けざる者たち」「ラブリーボーン」「サベイランス」「バッド・ルーテナント」「フィリップ、君を愛してる!」「フローズン・リバー」「サロゲート」「ハート・ロッカー」「ニンジャ・アサシン」「奴隷船」「マイレージ・マイライフ」「アーマード武装地帯」「ブルーノ」「クロッシング」「第9地区」「月に囚われた男」の20本です。
今回のしょんぼり映画は
「ラブリーボーン」の一本です。
大好きな、ピーター・ジャクソン監督作だったので、かなり期待して見に行った分、落胆が大きかったのだと思います。いいシーンもあったはずですが、ただ見ていて居心地の悪さばかり感じる映画でした。すべてにちぐはぐな感じを受けたのです。
残酷な殺人、ファンタジックな死の世界、突如はじまるサスペンス、あっけないラスト、どれも中途半端な印象を受けました。これまでのすべての作品が好きなだけに残念でたまりませんでした。次回作に期待しますから、監督、傑作をお願いします。
面白映画は7本です。
「誰がため」
ナチに支配されたデンマークの、レジスタンスの英雄の話です。飾り気がない素直な語り口で英雄2人の悲劇を描き切っています。日本人の私には、馴染みがない2人なので出来ればもう少しレジスタンスに身を投じた2人の背景を描いてくれれば、もっと感情移入できたのにと、少し残念でした。
「フィリップ、君を愛してる!」
この作品も期待が大きかっただけに、中盤のユアン・マクレガーとの恋愛シーンからの、少しまったりした、ストーリー展開についてゆけず、眠くなりました。しかしラストのどんでん返しとジム・キャリーのうまさで好印象の映画として終わることができたと思います。
「奴隷船」
懐かしの日活ロマンポルノそのままの印象の愛染恭子引退記念映画です。
日活ロマンポルノファン限定お勧め映画です。他の誰にもお勧めしません。
「サロゲート」
漫画<パーマン>に出てくるようなコピーロボットが主人の代わりに働き、主人は家で寝ているという世界の中で起こる殺人事件の真相をブルース・ウィリス刑事が解明してゆく物語です。しっかりしたSF映画になっていて面白く見ることができました。
懐かしい70年代SF映画の匂いがして、ラストも良かったです。SFファンにお勧めの映画です。
「ニンジャ・アサシン」
身体ずたずた血飛びまくりの現代、殺し屋、ニンジャ映画。
意外に残虐な印象を受けず、最後まで見ることができました。ラストのボスの倒し方を除けば、非常に面白かったです。
ニンジャの登場シーンや、特殊部隊との戦闘シーン、それにもちろん、主演の韓国人スターの身体の動きなど見て損はない映画だと思います。
「サベイランス」
デビッド・リンチの娘の監督作です。
乾ききった世界観の中に、芥川龍之介の<藪の中>的ストーリーが織り込まれている雰囲気の作品です。ラストまでまったく飽きさせません。好き嫌いが分かれるラストですが、
サイコ・ホラーとしては正解のどんでん返しだと思います。私は好きです。
「フローズン・リバー」
この映画も評判がかなり良かったので期待して見に行きました。
アメリカのリアルなプアホワイトの描写で唸らされ、仕方なく始めてしまう犯罪行為と不穏な空気感に圧倒されました。ただラストの救いが少し甘いように感じられたのが残念でした。終わりの印象がその映画自体の印象を変えてしまった。そんなものすごく惜しい作品です。
傑作映画は2本です。
「カティンの森」
90歳近い巨匠、アンジェ・ワイダ監督の家族が、実際に体験した第2次大戦中に起こった国家的犯罪行為を描いた作品です。ポーランドが完全にソ連の呪縛から解放された21世紀にならなければ撮ることができなかった作品です。淡々と描かれる戦争の残酷な現実のむこうに、静かにしかし底なしに深いワイダ監督の戦争への怒りが手に取るように感じられる傑作映画です。ぜひ見てください。
「アーマード武装地帯」
70年代アクション映画ファンの私にはこたえられない一本でした。
ハイパーガンアクション映画と誤解されるような邦題ですが、内容は全然違います。
現金輸送車のガードマン達が強盗に見せかけて金を強奪しようとしますが、目撃者を殺したことから計画に狂いが生じてきます。男たちが七転八倒しながら滅んでゆくそういう渋い映画です。出てくる俳優が、全て脇役が似合う俳優たちで、誰が生き残るのか最後まで分かりません。全ての人間に弱いところがあり、それゆえ非情になれずに墓穴を掘っていきます。私の大好きな設定です。文句なしに面白い映画です。邦題に惑わされずにぜひ見てください。
そして心ぴく映画は大漁10本になってしまいました。
「アバター」映像は当然のごとくすごいですが、裏に隠された反戦のメッセージに唸らされました。
別の価値観を持つ種族を、自分達の利益になる資源を搾取するために攻撃する。ブッシュ政権下のアメリカそのものではないですか。
映画で、主人公たちは国家の正義ではなく自分の正義を信じて戦います。これは私の大好きな、70年代のアメリカ映画そのものです。
ストーリーやデザインが古臭いだのという批判があるようですが私には的外れの意見としか感じられません。
彼らがいう新しい、ストーリーやデザインというのは、おそらくアニメに影響されたものなのでしょう。実用的ではなくかっこいいだけのデザインと、とてもリアルな戦争を描いたとは言い難いロボット戦争アニメ。それしか見たことがなく育った人たちは、ダサく感じるのは当然だと思います。しかし戦争とは非常にダサいものなのです。
半身麻痺の主人公が治療してもらう代わりに傭兵部隊のスパイになる件など、貧乏な青年がイラクから生還したら政府の計らいで大学に入ることができるという現実を表しています。
本当の意味の反戦映画や、テレビドラマが日本人の目の前から消えてしまって、
戦争というとロボットアニメやゲームだけという、恐ろしい状況が生み出した意見だと思わずにはいられません。
考えても見てください。
たとえば「アバター」を日本で作ったとして、日本人だらけの傭兵部隊が、少数民族のエイリアンから逆襲され全滅する。そんな映画をこの国は作れるでしょうか?
おそらく、いや絶対にできません。
それを考えれば、ジェームズ・キャメロンの腰が据わった反戦メッセージが並大抵の事ではないと理解できるはずです。
次回作の被ばくを描いた映画など是非とも日本政府がお金を出してほしいものです。
もうこの国の反戦映画は、なぜか外国人にしか撮れなくなってしまったのですから。
巨匠クリント、イーストウッド監督の傑作<硫黄島からの手紙>が1980年代以降の太平洋戦争を描いた映画のナンバー1の作品なのですから。
そんなことまでも考えさせてくれる反戦SF映画の傑作です。お勧めの心ぴく映画です。
「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」
期待せずに見に行ったら、すごく面白かった。私に嬉しい驚きを与えてくれたスウェーデンの傑作エンターティメント映画です。
旧家で起こる殺人事件、乗り出す脛に傷を持つ正義派敏腕記者と、その監視役の謎の女保険調査員。主人公2人のキャラクターが抜群に面白く、おどろおどろしい歴史に隠された殺人事件の真相が2人の生き様にリンクしてゆくラストは絶品です。3部作になっていて映画が終わった後第2部の予告篇が上映され絶対に見ようと思いました。それほど心ぴくな作品です。ぜひ見てください。
「インビクタス/負けざる者たち」
またまた巨匠クリント・イーストウッド監督の傑作です。
国のために尽くす事とは、私欲を捨て国民と共に困難に立ち向かうことだという事をわからせてくれます。
事実は小説より奇なりというように、フィクションでこんなすごい人物を描いたら絵空事だといわれるかもしれませんが、事実だから感動も本物になるのです。
とにかくネルソン・マンデラの生きざまに圧倒させられました。
アパルトヘイトという非人間的な政策を行っていた国をよくぞここまでにしたものです。
今犯罪が最も多い国といわれていますが、それは本当の民主主義国に生まれ変わるための産みの苦しみの途中だと思える、いや、そう信じさせる南アメリカの初代大統領の物語です。ぜひ見てください。
「バッド・ルーテナント」
ニコラス・ケイジが薬ちゅうの刑事を演じる風変わりな傑作映画です。
前作のバッド・ルーテナントよりも数段上の映画だと思いました。
薬のせいで幻覚がちらちら現れ、それがイグワナやワニで視点がハ虫類側に移るというトンでもなさも大好きでした。
魂が踊る所など最高です。すべてが終わった後のシーンもとてもいいです。とにかく
私の心臓を癒してくれた心ぴく映画の大傑作です。
「ハート・ロッカー」
戦争ハードボイルドの傑作です。
70年代ならスティーブ・マックイーンが主人公を演じたに違いありません。
反戦映画というよりは男の生きざまを描いたアクション映画といったほうがいいでしょう。それほど主人公はカッコいいです。
70年代社会派アクション映画の再来です。
このタイプの映画が大好きな私の心臓をぴくぴくさせてくれた心ぴく映画の傑作です。
「マイレージ・マイライフ」
伊達男のジョージ・クルーニーの意外な演技が、親父心をせつなくしました。リストラをテーマにしていますが、見せ場は違うところにある所など心憎い映画です。
男と女の真実が透けて見える演出は見事です。カップルで見たらこの映画の感想は全然違うものになると思います。
しっかりと人間を描いた映画はそうなるのが当たり前なのです。
男と女は違う考えを持つ動物、身体や心の構造が違う別種の生き物なのですから。
その違いをしっかり描いたからこそ傑作になりえたのです。
男の側から見たらひどい女も、女の側から見たら、男から身体や心を守るための力が弱い女の防衛の行動かもしれない。
そんなことまで考えさせてくれる傑作人間ドラマです。心臓にぴくぴくしました。見終わった後、彼女や奥さんと感想を言い合わないほうがいい、仲が良いままでいたいのならそれだけは注意してほしいと思います。
心ぴく映画超お勧めの一本です。
「ブルーノ」
傑作<ボラット>のサシャ・バロン・コーエンの最新作です。今回はゲイのファッション評論家になってあらゆる人々にドッキリを仕掛けていきます。
アラブでのドッキリはまさに命がけで唖然とします。
それと、同性愛を異常に嫌悪する人々がほとんどのアメリカ南部でのプロレス興行会場、その金網デスマッチのリング上での命がけの男同士のラブシーン、唖然とする観客の表情が爆笑ものです。
サシャ・バロン・コーエンは少しでも他者を差別する団体や個人を笑いものにしていきます。それはまるでコーエン自身の中にある差別意識まで攻撃してゆくかのようです。
だからあれほど命懸けなのでしょうか?
まあそんな堅い事を考えずに、爆笑して、そのあと深く考えたら、自分にも差別意識があることを発見できるかもしれません。そんなに深くて、徹底的にバカバカしい心ぴく傑作映画です。
「第9地区」
シュミュレーションSF映画の傑作です。もしも180万人の宇宙人を乗せた、故障した宇宙船が南アフリカの上空に現れたら・・。もしもその宇宙人を保護するために全てを地上の難民キャンプに移したとしたら・・。そして、もしもそれから20年たって、その難民キャンプがスラム化し、人間のギャング達が闇で商売をやっている最悪な状況の中、宇宙人達が生きる希望を失っているとしたら・・。
そして映画は、その宇宙人達全てを、「第10地区」のキャンプへ移す作業の場面から始まります。
主人公はその作業を請け負う大企業の社長の娘婿で、小役人そのものの男。それと、子持ちの宇宙人。この小役人が意地を見せ始めるラストは圧巻です。これ見よがしに宇宙人と地球人が友情を交わしあうこともない描き方は、まるで判りあえない人種問題を彷彿とさせて見事です。そしてラストのリアルなバトルシーン。人間ドラマ(?)をしっかり描くという基本は、たとえファンタジーやアクション、ホラー映画でも傑作と呼ばれるものには必要な条件なのです。それを見事にクリアした傑作心ぴく映画です。
クライマックス三つ巴の戦いは燃えること請け合いです。見て損はない超お勧め映画です。
「月に囚われた男」
デヴィッド・ボウイの息子が撮った正統派SF映画の傑作です。
登場人物は、月で資源の採掘作業をしている男、ほぼこの1人だけです。
しかし魅せます。飽きるどころか引き込まれます。アイデアが抜群です。
まさにセンス・オブ・ワンダー、将来こうなるであろう人類の未来が、製作費たった5億円の映画の中に凝縮されています。これ以上書くとネタばれになるので控えます。
とにかく見てください。SFとはこれです。舞台を宇宙に移しただけの、ヒーロー物でも、戦争物でもありません。これがSFなのです。心ぴく映画の大傑作です。
ぜひご覧ください。
「クロッシング」泣きました。映画のラスト号泣しました。北朝鮮で暮らす庶民を描いた韓国映画の傑作です。脱北者の人々が実際に体験したことをモデルにして作られているので、まるでドキュメント映画を見ているみたいに人権侵害国家の実態が具体的に語られていきます。
ニュースなどで聞く残虐行為を具体的に見せられ、その恐ろしさに戦慄を覚えます。
全世界の人々に見てほしい傑作です。日本でも是非学校の授業などで見せてほしいものです。
そして話し合ってほしい、どうしてこんな残虐な国家が出来上がってしまったのか。
そしてその国家の人々を救うためにはどうしたらいいかを。
それを徹底的に話し合えば、単純に潰せばいいなどという意見は出てこないはずです。
なぜならそれは太平洋戦争を戦った全ての国に責任があることなのですから。
大きなリスクを請け負っても、その責任は果たさなければならないことなのです。
このまま手をこまねいていれば手遅れになり、かならず不幸はアジア全体に拡大してゆくでしょう。日本も例外ではありません。
とにかく、まず身近な問題として感じるためにこの映画を見てください。
ここに描かれた世界は、人に流され、世間に流されて自分の頭で考えなくなった国民が多数になった我が国の未来の姿かもしれないのですから・・。
とにかく見てください、そして考えることがアジアに生きる1人1人の責任だと思います。
必ず見るべき心ぴくお勧め大傑作映画です。
最後に2009年度 巻来功士的心ぴく映画ベスト10の発表です。
第1位 チェンジリング(第60回心ぴくコーナー参考)同第1位 精神(第61回心ぴくコーナー参考)span style="line-height: 1.2;">第2位 アドレナリン・ハイボルテージ<(第62回心ぴくコーナー参考)同2位 選挙(第61回心ぴくコーナー参考)
第3位 エスター(第62回心ぴくコーナー参考)
第4位 ウォッチメン(第60回心ぴくコーナー参考)
第5位 チェィサー(第60回心ぴくコーナー参考)
第6位 イングロリアス・バスターズ(第62回心ぴくコーナー参考)
第7位 ヘルボーイ・ゴールデンアーミー(第59回心ぴくコーナー参考)
第8位 永遠の子供たち(第59回心ぴくコーナー参考)
第9位 レボリューショナリーロード 燃え尽きるまで(第59回心ぴくコーナー参考)
第10位 ザ・バンク 堕ちた巨象(第60回心ぴくコーナー参考)
この、ほぼ4カ月間に見た映画は、「アバター」「カティンの森」「誰がため」「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」「インビクタス/負けざる者たち」「ラブリーボーン」「サベイランス」「バッド・ルーテナント」「フィリップ、君を愛してる!」「フローズン・リバー」「サロゲート」「ハート・ロッカー」「ニンジャ・アサシン」「奴隷船」「マイレージ・マイライフ」「アーマード武装地帯」「ブルーノ」「クロッシング」「第9地区」「月に囚われた男」の20本です。
今回のしょんぼり映画は
「ラブリーボーン」の一本です。
大好きな、ピーター・ジャクソン監督作だったので、かなり期待して見に行った分、落胆が大きかったのだと思います。いいシーンもあったはずですが、ただ見ていて居心地の悪さばかり感じる映画でした。すべてにちぐはぐな感じを受けたのです。
残酷な殺人、ファンタジックな死の世界、突如はじまるサスペンス、あっけないラスト、どれも中途半端な印象を受けました。これまでのすべての作品が好きなだけに残念でたまりませんでした。次回作に期待しますから、監督、傑作をお願いします。
面白映画は7本です。
「誰がため」
ナチに支配されたデンマークの、レジスタンスの英雄の話です。飾り気がない素直な語り口で英雄2人の悲劇を描き切っています。日本人の私には、馴染みがない2人なので出来ればもう少しレジスタンスに身を投じた2人の背景を描いてくれれば、もっと感情移入できたのにと、少し残念でした。
「フィリップ、君を愛してる!」
この作品も期待が大きかっただけに、中盤のユアン・マクレガーとの恋愛シーンからの、少しまったりした、ストーリー展開についてゆけず、眠くなりました。しかしラストのどんでん返しとジム・キャリーのうまさで好印象の映画として終わることができたと思います。
「奴隷船」
懐かしの日活ロマンポルノそのままの印象の愛染恭子引退記念映画です。
日活ロマンポルノファン限定お勧め映画です。他の誰にもお勧めしません。
「サロゲート」
漫画<パーマン>に出てくるようなコピーロボットが主人の代わりに働き、主人は家で寝ているという世界の中で起こる殺人事件の真相をブルース・ウィリス刑事が解明してゆく物語です。しっかりしたSF映画になっていて面白く見ることができました。
懐かしい70年代SF映画の匂いがして、ラストも良かったです。SFファンにお勧めの映画です。
「ニンジャ・アサシン」
身体ずたずた血飛びまくりの現代、殺し屋、ニンジャ映画。
意外に残虐な印象を受けず、最後まで見ることができました。ラストのボスの倒し方を除けば、非常に面白かったです。
ニンジャの登場シーンや、特殊部隊との戦闘シーン、それにもちろん、主演の韓国人スターの身体の動きなど見て損はない映画だと思います。
「サベイランス」
デビッド・リンチの娘の監督作です。
乾ききった世界観の中に、芥川龍之介の<藪の中>的ストーリーが織り込まれている雰囲気の作品です。ラストまでまったく飽きさせません。好き嫌いが分かれるラストですが、
サイコ・ホラーとしては正解のどんでん返しだと思います。私は好きです。
「フローズン・リバー」
この映画も評判がかなり良かったので期待して見に行きました。
アメリカのリアルなプアホワイトの描写で唸らされ、仕方なく始めてしまう犯罪行為と不穏な空気感に圧倒されました。ただラストの救いが少し甘いように感じられたのが残念でした。終わりの印象がその映画自体の印象を変えてしまった。そんなものすごく惜しい作品です。
傑作映画は2本です。
「カティンの森」
90歳近い巨匠、アンジェ・ワイダ監督の家族が、実際に体験した第2次大戦中に起こった国家的犯罪行為を描いた作品です。ポーランドが完全にソ連の呪縛から解放された21世紀にならなければ撮ることができなかった作品です。淡々と描かれる戦争の残酷な現実のむこうに、静かにしかし底なしに深いワイダ監督の戦争への怒りが手に取るように感じられる傑作映画です。ぜひ見てください。
「アーマード武装地帯」
70年代アクション映画ファンの私にはこたえられない一本でした。
ハイパーガンアクション映画と誤解されるような邦題ですが、内容は全然違います。
現金輸送車のガードマン達が強盗に見せかけて金を強奪しようとしますが、目撃者を殺したことから計画に狂いが生じてきます。男たちが七転八倒しながら滅んでゆくそういう渋い映画です。出てくる俳優が、全て脇役が似合う俳優たちで、誰が生き残るのか最後まで分かりません。全ての人間に弱いところがあり、それゆえ非情になれずに墓穴を掘っていきます。私の大好きな設定です。文句なしに面白い映画です。邦題に惑わされずにぜひ見てください。
そして心ぴく映画は大漁10本になってしまいました。
「アバター」映像は当然のごとくすごいですが、裏に隠された反戦のメッセージに唸らされました。
別の価値観を持つ種族を、自分達の利益になる資源を搾取するために攻撃する。ブッシュ政権下のアメリカそのものではないですか。
映画で、主人公たちは国家の正義ではなく自分の正義を信じて戦います。これは私の大好きな、70年代のアメリカ映画そのものです。
ストーリーやデザインが古臭いだのという批判があるようですが私には的外れの意見としか感じられません。
彼らがいう新しい、ストーリーやデザインというのは、おそらくアニメに影響されたものなのでしょう。実用的ではなくかっこいいだけのデザインと、とてもリアルな戦争を描いたとは言い難いロボット戦争アニメ。それしか見たことがなく育った人たちは、ダサく感じるのは当然だと思います。しかし戦争とは非常にダサいものなのです。
半身麻痺の主人公が治療してもらう代わりに傭兵部隊のスパイになる件など、貧乏な青年がイラクから生還したら政府の計らいで大学に入ることができるという現実を表しています。
本当の意味の反戦映画や、テレビドラマが日本人の目の前から消えてしまって、
戦争というとロボットアニメやゲームだけという、恐ろしい状況が生み出した意見だと思わずにはいられません。
考えても見てください。
たとえば「アバター」を日本で作ったとして、日本人だらけの傭兵部隊が、少数民族のエイリアンから逆襲され全滅する。そんな映画をこの国は作れるでしょうか?
おそらく、いや絶対にできません。
それを考えれば、ジェームズ・キャメロンの腰が据わった反戦メッセージが並大抵の事ではないと理解できるはずです。
次回作の被ばくを描いた映画など是非とも日本政府がお金を出してほしいものです。
もうこの国の反戦映画は、なぜか外国人にしか撮れなくなってしまったのですから。
巨匠クリント、イーストウッド監督の傑作<硫黄島からの手紙>が1980年代以降の太平洋戦争を描いた映画のナンバー1の作品なのですから。
そんなことまでも考えさせてくれる反戦SF映画の傑作です。お勧めの心ぴく映画です。
「ミレニアム ドラゴンタトゥーの女」
期待せずに見に行ったら、すごく面白かった。私に嬉しい驚きを与えてくれたスウェーデンの傑作エンターティメント映画です。
旧家で起こる殺人事件、乗り出す脛に傷を持つ正義派敏腕記者と、その監視役の謎の女保険調査員。主人公2人のキャラクターが抜群に面白く、おどろおどろしい歴史に隠された殺人事件の真相が2人の生き様にリンクしてゆくラストは絶品です。3部作になっていて映画が終わった後第2部の予告篇が上映され絶対に見ようと思いました。それほど心ぴくな作品です。ぜひ見てください。
「インビクタス/負けざる者たち」
またまた巨匠クリント・イーストウッド監督の傑作です。
国のために尽くす事とは、私欲を捨て国民と共に困難に立ち向かうことだという事をわからせてくれます。
事実は小説より奇なりというように、フィクションでこんなすごい人物を描いたら絵空事だといわれるかもしれませんが、事実だから感動も本物になるのです。
とにかくネルソン・マンデラの生きざまに圧倒させられました。
アパルトヘイトという非人間的な政策を行っていた国をよくぞここまでにしたものです。
今犯罪が最も多い国といわれていますが、それは本当の民主主義国に生まれ変わるための産みの苦しみの途中だと思える、いや、そう信じさせる南アメリカの初代大統領の物語です。ぜひ見てください。
「バッド・ルーテナント」
ニコラス・ケイジが薬ちゅうの刑事を演じる風変わりな傑作映画です。
前作のバッド・ルーテナントよりも数段上の映画だと思いました。
薬のせいで幻覚がちらちら現れ、それがイグワナやワニで視点がハ虫類側に移るというトンでもなさも大好きでした。
魂が踊る所など最高です。すべてが終わった後のシーンもとてもいいです。とにかく
私の心臓を癒してくれた心ぴく映画の大傑作です。
「ハート・ロッカー」
戦争ハードボイルドの傑作です。
70年代ならスティーブ・マックイーンが主人公を演じたに違いありません。
反戦映画というよりは男の生きざまを描いたアクション映画といったほうがいいでしょう。それほど主人公はカッコいいです。
70年代社会派アクション映画の再来です。
このタイプの映画が大好きな私の心臓をぴくぴくさせてくれた心ぴく映画の傑作です。
「マイレージ・マイライフ」
伊達男のジョージ・クルーニーの意外な演技が、親父心をせつなくしました。リストラをテーマにしていますが、見せ場は違うところにある所など心憎い映画です。
男と女の真実が透けて見える演出は見事です。カップルで見たらこの映画の感想は全然違うものになると思います。
しっかりと人間を描いた映画はそうなるのが当たり前なのです。
男と女は違う考えを持つ動物、身体や心の構造が違う別種の生き物なのですから。
その違いをしっかり描いたからこそ傑作になりえたのです。
男の側から見たらひどい女も、女の側から見たら、男から身体や心を守るための力が弱い女の防衛の行動かもしれない。
そんなことまで考えさせてくれる傑作人間ドラマです。心臓にぴくぴくしました。見終わった後、彼女や奥さんと感想を言い合わないほうがいい、仲が良いままでいたいのならそれだけは注意してほしいと思います。
心ぴく映画超お勧めの一本です。
「ブルーノ」
傑作<ボラット>のサシャ・バロン・コーエンの最新作です。今回はゲイのファッション評論家になってあらゆる人々にドッキリを仕掛けていきます。
アラブでのドッキリはまさに命がけで唖然とします。
それと、同性愛を異常に嫌悪する人々がほとんどのアメリカ南部でのプロレス興行会場、その金網デスマッチのリング上での命がけの男同士のラブシーン、唖然とする観客の表情が爆笑ものです。
サシャ・バロン・コーエンは少しでも他者を差別する団体や個人を笑いものにしていきます。それはまるでコーエン自身の中にある差別意識まで攻撃してゆくかのようです。
だからあれほど命懸けなのでしょうか?
まあそんな堅い事を考えずに、爆笑して、そのあと深く考えたら、自分にも差別意識があることを発見できるかもしれません。そんなに深くて、徹底的にバカバカしい心ぴく傑作映画です。
「第9地区」
シュミュレーションSF映画の傑作です。もしも180万人の宇宙人を乗せた、故障した宇宙船が南アフリカの上空に現れたら・・。もしもその宇宙人を保護するために全てを地上の難民キャンプに移したとしたら・・。そして、もしもそれから20年たって、その難民キャンプがスラム化し、人間のギャング達が闇で商売をやっている最悪な状況の中、宇宙人達が生きる希望を失っているとしたら・・。
そして映画は、その宇宙人達全てを、「第10地区」のキャンプへ移す作業の場面から始まります。
主人公はその作業を請け負う大企業の社長の娘婿で、小役人そのものの男。それと、子持ちの宇宙人。この小役人が意地を見せ始めるラストは圧巻です。これ見よがしに宇宙人と地球人が友情を交わしあうこともない描き方は、まるで判りあえない人種問題を彷彿とさせて見事です。そしてラストのリアルなバトルシーン。人間ドラマ(?)をしっかり描くという基本は、たとえファンタジーやアクション、ホラー映画でも傑作と呼ばれるものには必要な条件なのです。それを見事にクリアした傑作心ぴく映画です。
クライマックス三つ巴の戦いは燃えること請け合いです。見て損はない超お勧め映画です。
「月に囚われた男」
デヴィッド・ボウイの息子が撮った正統派SF映画の傑作です。
登場人物は、月で資源の採掘作業をしている男、ほぼこの1人だけです。
しかし魅せます。飽きるどころか引き込まれます。アイデアが抜群です。
まさにセンス・オブ・ワンダー、将来こうなるであろう人類の未来が、製作費たった5億円の映画の中に凝縮されています。これ以上書くとネタばれになるので控えます。
とにかく見てください。SFとはこれです。舞台を宇宙に移しただけの、ヒーロー物でも、戦争物でもありません。これがSFなのです。心ぴく映画の大傑作です。
ぜひご覧ください。
「クロッシング」泣きました。映画のラスト号泣しました。北朝鮮で暮らす庶民を描いた韓国映画の傑作です。脱北者の人々が実際に体験したことをモデルにして作られているので、まるでドキュメント映画を見ているみたいに人権侵害国家の実態が具体的に語られていきます。
ニュースなどで聞く残虐行為を具体的に見せられ、その恐ろしさに戦慄を覚えます。
全世界の人々に見てほしい傑作です。日本でも是非学校の授業などで見せてほしいものです。
そして話し合ってほしい、どうしてこんな残虐な国家が出来上がってしまったのか。
そしてその国家の人々を救うためにはどうしたらいいかを。
それを徹底的に話し合えば、単純に潰せばいいなどという意見は出てこないはずです。
なぜならそれは太平洋戦争を戦った全ての国に責任があることなのですから。
大きなリスクを請け負っても、その責任は果たさなければならないことなのです。
このまま手をこまねいていれば手遅れになり、かならず不幸はアジア全体に拡大してゆくでしょう。日本も例外ではありません。
とにかく、まず身近な問題として感じるためにこの映画を見てください。
ここに描かれた世界は、人に流され、世間に流されて自分の頭で考えなくなった国民が多数になった我が国の未来の姿かもしれないのですから・・。
とにかく見てください、そして考えることがアジアに生きる1人1人の責任だと思います。
必ず見るべき心ぴくお勧め大傑作映画です。
最後に2009年度 巻来功士的心ぴく映画ベスト10の発表です。
第1位 チェンジリング(第60回心ぴくコーナー参考)同第1位 精神(第61回心ぴくコーナー参考)span style="line-height: 1.2;">第2位 アドレナリン・ハイボルテージ<(第62回心ぴくコーナー参考)同2位 選挙(第61回心ぴくコーナー参考)
第3位 エスター(第62回心ぴくコーナー参考)
第4位 ウォッチメン(第60回心ぴくコーナー参考)
第5位 チェィサー(第60回心ぴくコーナー参考)
第6位 イングロリアス・バスターズ(第62回心ぴくコーナー参考)
第7位 ヘルボーイ・ゴールデンアーミー(第59回心ぴくコーナー参考)
第8位 永遠の子供たち(第59回心ぴくコーナー参考)
第9位 レボリューショナリーロード 燃え尽きるまで(第59回心ぴくコーナー参考)
第10位 ザ・バンク 堕ちた巨象(第60回心ぴくコーナー参考)
# by mind-house | 2010-04-28 01:43